七つの椅子

「居ないわ」

広いロビーに入るなり、周りを見回し一言。

そしてエレナの迷いの無い足はエレベーターに向かった。

居ないと言うのは所有者の事だろう。

「ねぇ、何で部外者が簡単に中に入れるの?」

落ち着いた色合いのエレベーターに一緒に乗り込む。

「姿を消すより、関係者って認識させれば人とも接触が楽かなって」

エレナは何でもない様に言うと、最上階のボタンを押した。

扉は閉まり、密室の大きな箱は目的地まで動き出す。

「階まで解るんだ」

感心して押されて光ったボタンを見つめると、あっさり否定された。

その理由は『上の方から気を感じるから』という簡単なものだった。

…随分と大雑把ですね。

俺はエレベーターが最上階に近づくにつれて、ふつふつと怒りがこみ上げてきた。

最上階には社長室がある。

俺をクビにした社長の石川健二が居る。

< 41 / 174 >

この作品をシェア

pagetop