七つの椅子
エレベーターが上がるのと比例して、あの時の記憶が鮮明に蘇ってくる。
あの日、石川社長に話があると景色が綺麗な最上階の社長室に呼ばれていた。
石川社長は俺の働きを認めてくれていて、可愛がってもらっていた。
オフィスで仕事をしている俺を最上階まで呼び出して、シワシワな笑顔で『今夜飲みに行かないか?』と誘いを受け、何度も食事に行った事もあった。
コンコンと社長室の扉をノックして、返事を聞いてから扉を押し開けた。
「失礼します」
今回も食事の誘いだろう、と軽い気持ちで中へ入った。
「仕事中にすまないね」
いつもは笑いジワの沢山ある優しい笑顔で一言目に食事の誘いをしてくるのだが、今回は真剣な顔だったので仕事の話だと直ぐに理解した。
良い意味での“特別な呼び出し”に自信で心を満たしながら、心地良い緊張感を感じていた。
「いえ、大丈夫です。あの、話とは?」
歩み寄り、大きなデスクを挟んで革のイスに座る石川社長の前に立つ。
「君は明日から来なくていい」
石川社長の口からは、予想とは真逆の言葉が発せられた。
「…は?…な、何の冗談ですか」