七つの椅子
情けない過去を思い出して、自分から現実に戻ってきた。
「ビンゴみたいね」
エレナが呟くのとエレベーターの扉が音もなく開いたのは同時だった。
どうやら“邪の気”を通り過ぎる事無く最上階へ来たようだ。
石川はどんな顔をするだろうか。
クビにした男がアポも無しに乗り込んできたら驚くだろうか。
先を歩くエレナの後ろを歩く。
最上階には社長室の他に客間が幾つもある。
一つとして同じ客間は無く、相手の地位に合わせて使い分けていた。
俺の予想では邪の椅子は社長室にあると踏んでいる。
オールマイティに近い魔法の椅子を目の届かない所には置かないだろう、という理由からだ。
現に俺はリビングにエレナの椅子と一緒に金の椅子を置いてある。
まぁ俺をクビにする男の考えなんて解りたくもないが…。
最上階の廊下には似た様な扉が不等間隔で並んでいる。
エレナはその客間の扉には見向きもせず、一つだけ他の扉とデザインが異なる大きな扉の前で足を止めた。