七つの椅子
『社長室』と掘られた金のプレートが付いているが、俺は目の前の扉に見覚えがなかった。
俺が以前勤めていた頃は客間と同じデザインの一枚扉に『社長室』と書かれたプレートが付いているだけだった。
だが、今目の前にある扉は木製ではあるが細かくデザインされ、金属部分は全て黄金に輝いている。
プレートが無くとも社長室だと解る程に豪華な造りである。
「ここから邪の気がプンプンするわ」
エレナは金のプレートを仁王立ちで睨む。
「ここまですんなり来れたのが不思議なんだけど」
首を傾げながら、俺も金のプレートを見つめる。
「それは中に居る金遣いの荒い社長さんも同じ事思ってるんじゃない?」
チラリと右側に居るエレナを見るが目は合わなかった。
その代わり、金のL字型の取っ手に手を掛けるエレナの手が見えた。
「待って」
俺はその手を止めた。
エレナは『なに?』と言いたげな表情で俺を見た。
「俺が開ける」
エレナは何も言わず、するりと手を退けた。