七つの椅子
俺が寿なら、その鋭い視線に何も言えなくなってしまう。
「本気だったんだよ?」
和華菜の頬を撫でる寿を見ると本意では無いことが窺える。
「平然と嘘を吐けるなんて、邪の椅子は清太に引き寄せられたのね。名前が泣くわ」
「俺の所に現れなかったら、きっとエレナの所に椅子は行ってたよ。愛してもいない男に媚を売って都合の良い様に利用するなんて、小悪魔じゃ済まないよ」
大袈裟に鼻で笑うと、汚い物を見る様な顔で俺とエレナを交互に見る。
「私は本気で愛してるわ!」
エレナは寿の罵声に体を震わせ早口で言い切った。
『俺は』と声を上げそうになり、喉まで来た言葉を飲み込んだ。
泣いているのかと思いエレナの顔を覗くと、その震えは怒りからだと解った。
寿の言葉に鬼の様な顔をして拳を握るエレナの姿を見ると、自意識過剰かもしれないが、俺への想いが本気なのだと伺えた。
じゃぁ……じゃぁ俺は?
俺はエレナに本気なのか?
飲み込んだ言葉の後に何を言おうとしてた?