七つの椅子
第八話
「マリア様、私にはもう、どうしてよいか分からないのです。このままでは妻も二人の娘も飢え死にしてしまいます…。もう私は商売を辞めた方が良いのでしょうか……」
あぁマリア様マリア様、と繰り返し老人はマリア像に祈り続ける。
「あぁマリア様、この者を導く術を架け橋となる私にお教え下さい」
シスターは目を瞑ったまま顔を上げた。
瞼の奥の瞳は天を見つめる。
「彼女は神に選ばれしシスターなのです」
「うわっ!?」
突然左隣から、しわがれた女の声が聞こえ、俺とエレナは声を上げた。
驚いてその場から一歩離れると、俺とエレナの間に黒服で身を包んだ老婆が立っていた。
歴史を感じる深いシワ、かつてはハリがあったであろう垂れた頬にはシミが目立っていた。
細く綺麗な白髪は後頭部で団子にまとめられ、年をとっても色褪せない青い瞳。
若ければエレナと同じくらいの背だったのかもしれないが、今は背骨が曲がりエレナより小さい。
「先客が居るようなので私は帰ります」
「あのシスター、マリアの声が聞こえるの?」
踵を返した老婆にエレナが声をかけた。