七つの椅子
老婆は振り返った。
「ええ、彼女には聞こえます。だから彼の様に彼女を通してマリア様の言伝を受けるのです」
老婆は尊敬の眼差しで、自分より幾らか若いシスターを見上げる。
「……あの椅子は?」
俺は慣れないフランス語をゆっくりと発しながら、シスターが座る椅子を指さした。
「あの椅子は彼女がマリア様のお声を聞く時に必ず座っている椅子です。ああやって宙に浮いているのは彼女の特別な力を持っている証拠だと、噂されています」
老婆はシスターを見つめながら、誇らしげに言った。
「ありがとうございます。マリア様の仰る通りにいたします」
老人は宙に浮くシスターに頭を下げると、扉の前に立つ俺達の間をすり抜けて駆け足で出て行った。
「あれ?」
先程まで左隣に居た老婆が消えていた。
エレナも気付いた様だが、特に口にしなかった。
老人を見送ってからシスターに視線を移す。
シスターはロングスカートの裾をユラユラと揺らしながら、地に降りて来る。
その目は青く輝いていた。