シーソーが揺れてる
それをどうにか拭い終え、唇を開きかけた時、はっと気がついた。何を話したらいいのか分からない。
今思うと、そもそもなぜこんな時間に直人に電話をかけたのだろう?あの時確かに直人の声が聞こえたような気がして・・・。
「今どこに居る?」
無音状態を降り解くように直人は早口で尋ねた。
「家」
その声は明らかに涙声だった。
「で、どうしたんだよ」
「先輩・・・」
「何があったって言うんだ?」
小声で恐る恐る呼びかける良太の声をはねのけて直人は再度尋ねた。
「ただ何となく、声が聞きたくなって・・・」
「おれのかー?」
胸の奥に突然刺さった驚きと戸惑いを押し殺すように直人は言った。
「うん」
またしても電話の向こうの春香の目から涙が溢れた。しかしこんどは拭うことはしなかった。
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