シーソーが揺れてる
「一応親父に話してみてもいいけど?」
「何を?」
「おまえのバイトのことだよ」
「あんたの店で働けって言うの?」
「だからさっきからそう言ってるじゃないか」
苛立ったような直人の声が春香の胸に刺さった。と同時にあのもやもやしたあせりが、心臓の奥の方からざわざわと動き始めた。
「あっ、そっそうね」
それを押しとどめながら春香はどうにか直人の声に答えた。
「窓拭きぐらいならやらせてくれるだろう。それほど収入は多くないけど。でも何もしないで遊んでるよりかはまだそのほうが・・・」
「いいじゃない」
直人の言葉を遮った春香の声が震えた。
「えっえ?」
直人は口をぽかんとさせた。
「私の、ことなんだから、べつにいいじゃない!」
春香の目から溢れ出した涙がソファーの上に音をたてて落ちた。
「泣いてるの?」
受話器越しの直人の声が春香の耳をかすめた。
「ほっといてよ!」
そう言い終えたとたん、春香は声を上げて鳴き始めた。
「春ちゃん?」
遠くから広美の呼ぶ声がした。
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