シーソーが揺れてる
「先輩」
直人が店内をとぼとぼ歩いていると、向こうの方から歩いて来た良太がすれ違い様に声をかけた。
「おー、お疲れさん」
「先輩だめじゃないですかー、西山さんのランドセル壊しちゃ」
直人からの労いの言葉をすり抜けるように良太は言った。
「聞こえてたのかー?良太おまえ天国耳だなあ」
「それを言うなら地獄耳ですよ」
良太はさきほどよりちょっと声を潜めた。
「うんそうとも言う」
「もしここに西山さんが居たら、「あんたはクレヨンしんちゃんか」って突っ込まれるんだろうなあ、先輩・・・」良太は心の中でくすくす笑った。
「それより、昨日西山さんから電話あったんですか?」
それを直人に見抜かれないように、良太は落ち着いた声で聞いた。
「なに、それも聞いてたのかー」
「すみません、聞いてしまいました」
良太は一瞬照れ笑いを浮かべた。
「昨日の夜電話があって、次の休みはいつって聞かれたから金曜日だって言ったら私も暇だから遊ばないかって言われた」
「そうだったんですかー」
「昨日のメールの頼みを西山さんすぐに受け入れてくれたんだー!よかった」
ところが、安心したはずの良太の心が次の瞬間急にはがゆくなった。
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