シーソーが揺れてる
「シーソーに乗ったのって何年ぶりだろう!なんか懐かしい」
シーソーを漕ぐ春香の声は弾んでいる。
「小学生の時以来じゃない?」
「そうかも。ねえ、もし今世界旅行に行けるとしたらどこ行きたい?」
向かい合って座る直人に春香は尋ねる。
「そうだなあ。やっぱハワイかグアムかなあ」
「えー、そんなとこ行きたいのー?」
「なんだだめかー?」
「だって今の時期そんなリゾート行ったらよけい暑くなるじゃない」
「あーカップルがな」
「それもそうだけど・・・、気温が暑くなるってことよ。まああんたが行きたいとこならべつにいいけど」
「じゃあおまえはどこ行きたいんだよ」
「私?」
春香は少し考えた。
「そうねえ。イタリアかなあ。本場のパスタが食べられるし、ベネチアのゴンドラにも乗ってみたいし・・・」
春香は音大でやったガルッピと言う作曲家のピアノソナタに出てくる風景を思い出した。ベネチアの石畳と、ゆっくりとゴンドラが上がっていくところを・・・。
「へえ」
だが直人の素っ気ない返事にその光景は消え失せた。その気分を変えるように春香はさらにこう続ける。
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