シーソーが揺れてる

「あれ?」
老人ホームを出て住宅地を歩いていた広美が、大通りに出てすぐの横断歩道を渡った先に立っている二つの人影を捕らえた。
「春ちゃん?」
その内の一つにぴんときた広美は、歩くスピードを上げて大通りに入る。目の前の信号は青だった。
「春ちゃーん!」
「えっ、・・・!」
突然目の前から聞こえてきた聞き覚えのある声に、春香はびくっとしかけた。
「広美・・・?」
春香はどう反応したらいいか分からずにいた。それは直人も同じようで、春香の後ろにそっと隠れるように突っ立っているだけだった。
広美は小走りに横断歩道を渡る。
「何でここに?」
やっと追いついた広美に春香は驚きを隠しきれずに聞く。
「それはこっちの台詞よ。あれ、そちらの方はー・・・」
広美の目が、春香のすぐ後ろに立つ男の方に注がれる。
「あー、この人は私の友達の・・・」
春香は後ろを振り返ると直人の腕を掴んだ。直人はまるで石像のように固まっている。
「ちょっと、何恥ずかしがってんのよ」
腕を掴んだまま春香は耳打ちすると、そのまま直人を広美の前に引きずり出した。
「杉浦直人です」
目の前を走る車の音にかき消されてしまいそうなくらい小さな声だったが直人は言った。
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