シーソーが揺れてる
「お帰り」
玄関のドアが開いたのと同時に普段と何ら変わらぬ調子で母小夜子が姿を見せた。
「あー、ただいま」
春香はなるべく母の顔を見ないようにしながら玄関を潜った。
その時不意に見に覚えのある臭いが鼻を突く。それは久しぶりにかぐ臭いかもしれない。
そう、これが生まれ育った家の臭いだ。
「ずいぶん早かったのねえ」
靴を脱いで家に上がる春香に母は言う。
「うん、何も予定無いし」
自分の部屋に向けて廊下を歩きながら春香は素っ気なく答えた。
「あれ、お仏壇は?」
祖父の遺影が飾ってある仏壇を指さして母は再び春香に言う。
「あー、後でやる」
振り返ることなく春香は答えると、そのままの足取りで自室へと向かった。
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