シーソーが揺れてる
そのことに、今祖父の遺影を見つめている春香ははっと気がついた。
「春香、掃除終わったから入っていいわよ」
春香を幻想から現実へと引き戻したのは、自室から呼ぶ母の声だった。
「あっ、うん分かった、ありがとう」
春香はゆっくりと仏壇から立ち上がると再び自室へと向かった。
改めて入った自分の部屋は、さきほどの乱雑さとは打って変わってすっきりとしていた。床の上には何一つ物は無く、机や棚の上もちり一つ見あたらないぐらい綺麗に掃除されていた。
春香はソファーも兼ねたベッドに、かけていたバッグを下ろすとその横に自分も腰を下ろした。そしてゆっくりと息を吐く。
リビングと同じようにやけに静かだ。
「あっそうだ」
思いついたように、春香は一端ベッドから立ち上がると机の方に手を延ばした。
「おうあったこれこれ」
それは机の隅に置いてあるペン立てのさらに奥にあった。いつだったか父が買ってくれたテレビも見られる携帯ラジオだ。
それを手に、春香はベッドに座り直した。そして小さな液晶画面についた埃を払うと機械右下のボタンを押した。
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