シーソーが揺れてる

「ざーっ、ざーっ」と言うノイズが耳をつんづく。選曲ボタンを何度押しても声は聞こえてこないし、液晶画面には何も写らない。
「あんれおっかしいなあ」
携帯ラジオのアンテナを立ててそれを窓際に向けようとした時、春香ははっとした。
「そっかー、このテレビ、もう写らないんだ」
テレビが地上デジタル放送に移行したのは確か去年の今ぐらいの時期だろう。そんなことすっかり忘れていた。
もし今ここに直人が居たら、
「おまえまだ地デジじゃないのかー？遅れってるー」
と笑われるんだろうなあ。恥ずかしさを覚えつつ、春香は携帯ラジオをテレビからFMに切り替えた。
「ではここでプレゼントの当選者を発表しましょう。本日のプレゼント、県内７店舗にある洋菓子店・・・」
まだ少しノイズは残っているものの、爽やかな女性パーソナリティの声が聞こえてきた。安心したように春香は携帯ラジオを机の上に置いた。
それからしばらくの間、春香はラジオを聞いたり本を読んだりして過ごした。
部屋の東側のスペースを陣取っている物を、なるべく見ないようにしながら・・・。