シーソーが揺れてる
その声は明らかに聞き覚えのある声だった。
声の主は直人の左側にちょこんと座っていた。彼女は膝の上に本を広げて読んでいた。
「いつからそこに?」
左耳のイヤフォンを外して直人は聞いた。
「今さっき来たところ。そんなことより、あんたそのラジオどっから盗んできたのよ」
「盗んだとは何だよ、人聞きの悪い」
「だって今までそんな物持ってなかったじゃない」
「あーこれか?昨日良太に貰ったんだよ。あいつのお下がりだ」
「ふーん」
彼女は言葉では素っ気ない態度を示したが、実際は真逆である。昨日会って以来良太からの連絡は春香のところには無かった。
「片山くん、今日は来てないのね」
直人の耳に春香の声が寂しげに響いた。
「あいつ今日は学校の日だからなあ」
「あっ、そっかー」
それを聞いて、春香は少し安心できたような気がした。
直人は外していたイヤフォンを左耳に戻した。春香も再び視線を本に走らせた。
それからは沈黙が流れた。
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