シーソーが揺れてる
夜8時前。
サークル仲間との打ち上げも早々に春香と広美は混雑したバスへと乗り込んだ。
春香は釣り革に捕まりぼんやりと窓の外を見ていた。もうすぐ8時だと言うのに、車窓から見える町はまだ明るかった。
真夏の太陽の力ってすごいなあ!としみじみ思っていると、
「春ちゃん」
すぐ横に立つ広美に呼ばれた。
「何?」
「明日帰るんだよね」
そう尋ねる広美の声はどこかしんみりしていた。
「うんそのつもりだけど」
「そっかー。何か寂しいよ」
「えー何それ。この前は帰れ帰れってあんなにうるさく言ってたのに」
「帰れなんて言ってないよ。早く帰った方がいいんじゃないとは言ったけど」
「同じようなもんよ」
「ふふふ?」
広美は誤魔化すように笑って見せたが、春香にはそれが無理をしているように見えて仕方なかった。バスは渋滞のせいかさっきからのろのろとしか動いていない。
「春ちゃん」
再び広美は春香の名を呼んだ。
「ん?」
「元気になってよかったね」
「えっ?あーあ・・・」
そうだった。自分は体調が悪くなったから帰って来たんだった。そんなことを今更ながら思い出した春香は何だかものすごく嬉しい気分になった。
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