シーソーが揺れてる
「大会の帰りに親父と良太の住むアパートの部屋まで行ってみたんだよ。そしたら鍵がかかってて、インターフォンを何回も押しても応答が無いんだ。
大家さんにに聞いてみたら、確かにここ1週間ぐらいは部屋を留守にしているようだけど、まだ契約は解除してないって。
参っちゃうよなあ。さすがにおれも親父もショックだよ」
「そう」
だが春香は直人や親父さんほどショックではなかった。やっぱりそうか!そう思っていた。
しかしこんなに取り乱している直人は今まで見たことが無い。
いつもならどんな事態が起こっても、まるで人事のようにひょうひょうとしている直人・・・。でももしかすると、これまでそんな風に演じてきただけかもしれない。そうだとしたら・・・!
「心配しなくてもだいじょうぶだよ」
春香はなるべく落ち着いた声で直人に言う。
「だいじょうぶなわけねえだろう?店にも来ないし部屋にも居ない。どうすりゃいいんだよ」
直人の声は今にも泣き出しそうだった。
春香は大きく息を吸うと、受話器越しの直人に語りかけるように言った。
「きっと片山くんは自分の夢を探しに行ったんだよ。今の私と同じように・・・」
「・・・」
直人の声が途絶えた。
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