シーソーが揺れてる
「ありがとう」
春香は頬を緩めた。ところが、
「何が?」
直人から帰ってきたのはそんなとぼけたような反応だった。春香は呆気に取られながらも少し考えてこう言った。
「いや何でも無いこっちのこと」
「ふーん。で、明日来る?」
「もちろん、そのつもりだよ」
「そっかー」
「じゃあ私そろそろ寝るから」
「あー、遅くにすまなかったな」
「それは気にしないで。おやすみ」
春香は電話を切るとすぐはっと広美を見た。彼女は泣き疲れてしまったのか、積み上げられた段ボールに凭れ掛かって眠っていた。
「はー、やれやれ」
春香は立ち上がるとソファーの隅に畳まれているタオルケットを手に取った。そしてそれを広美の体にそっとかけてやる。かつて自分がそうされたように。
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