シーソーが揺れてる
公園前のバス停で降りると、香ばしい臭いが春香の鼻をくすぐった。それは昔駄菓子屋だったところにできたパン屋さんから漂うパンの焼ける臭いだった。
「あっそうだ」
春香はその臭いに吸い寄せられるようにパン屋さんへと入って行った。
店に入ると迷うこと無くクリームパンとウィンナーロールとアップルパイをトレイに乗せた。そうあの時と同じように・・・。
お金を払い店を出ると、相変わらず生暖かい熱風が春香の体を包んだ。
暑さのせいなのか、それまで順調に動いていた春香の思考が急に鈍く重たくなったように感じた。同時にこれから人前でピアノを弾く時のような緊張感を覚えた。
今日はどうしても直人に伝えなければならないことがあるのだ。
今までずっと隠していたわけでもないが、ここに来てやっと確信が持てた。べつに明日からもう2度と会えないわけじゃないから今日じゃなくてもいいのだが、今日がいいタイミングだったから、ただそれだけのこと。
小さく鳴り響く胸の鼓動を耳に、春香は公園まで急いだ。
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