シーソーが揺れてる
「直人」
公園のベンチまでたどり着くと、春香は左側に座る直人に声をかけた。しかし返事が無い。直人はベンチに座ったまま一瞬たりとも動かずに生暖かい風に煽られてぼーっと考えに耽っているようだ。
「直人!」
嫌な予感を覚えながら春香はさっきよりも強い声で直人を呼んだ。
「ん?あー、何?」
普段通りのその声に、春香はほっと一安心した。
「ちょっと、どうしたのよ」
「え?何が?」
「だって呼んでも返事しないし、座ったまんまぼーっとしてるみたいだったから」
「今ラジオで餃子の話やってたんだよ。そういやあ最近餃子くってねえなあって考え事してたの」
「へーえ」
「今晩は絶対餃子だな」
「あらいいじゃない美味しそうで。あっそうだ」
春香は思い出してバッグの中から買ったばかりのパンを取り出した。
「はい、好きなの選んで」
二人の間に置かれた袋を直人はじっとのぞき込んでいる。
「じゃあこれ」
直人が取り出したのはアップルパイだった。
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