シーソーが揺れてる
「えっ?」
ぽかんとした目で自分を見つめる直人に、春香は何とか笑顔を作ると明るい調子で言った。
「うん。じつは最近親からよく電話がかかってきてて、何もしてないなら家帰って来いってうるさいんだよー」
「へえ」
ベンチに座る二人の耳には、止まることなく泣き続けているアブラゼミの声に混じってぎゃーぎゃーとはやし立てるように泣くカラスの声が聞こえていた。その真後ろで、じりじりと夏の太陽の日差しが次の言葉を探す二人を刺すように照らしている。
「家に帰って何するの?」
食べ終えたアップルパイの袋を両手で弄びながら直人はぽつり尋ねる。
「まずねる。それからー・・・」
「そうじゃなくて」
「え?」
「おれが言ってんのはこの先おまえどうすんだって話」
「あーっ・・・うん、体調も落ち着いてきたからとりあえずバイトしようと思ってる」
「どこでバイトするの?」
「・・・メイド居酒屋」
春香は少し嘘をついた。まだ何も決め手ないことを話せば、
「暢気だねえ」ってからかわれるか、
「じゃあ家に来る?」って誘われるに違い無い。
春香はそのどちらとも嫌だったからだ。
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