シーソーが揺れてる
「あれって?」
「シーソー」
直人は向かい合って並んでいるシーソーのいすの部分を見た。
「うん」
春香に向けて大きく頷くと、直人はすっとその場から立ってシーソーの方に向かった。それに続いて春香も立ち上がった。
まるで暗黙の了解のように二人はシーソーに向かい合って座った。間もなくしてそれは空中を蹴り動き始めた。
「こんどはうまく行ったね」
一定のリズムを刻むように動きが安定してくると春香は言った。
「えっ何が?」
「忘れたならいい」
直人、あの日の事もう忘れちゃったの?と春香は直人の反応を腹立たしく残念に思ったが、それでも今二人は同じ動きを感じている、この時この瞬間を共有しているんだと言うことをとても誇らしく思っている。
「なあ」
シーソーを漕ぎながら直人は言う。
「何?」
「実家帰るってことはさあ、もうここには来ないってこと?」
シーソーの動きが少し弱まったような気がした。
「まだ分からないけど、もう2度と来ないってことは無いと思う」
春香はシーソーを漕ぐ足にぐっと力を込めた。
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