シーソーが揺れてる
バスが走り去ると、直人は今さっき春香から受け取った傘を開いた。
その瞬間、かすかではあるがほんのり甘い香りが漂ってきた。
「これは・・・」
傘を差しバス停のベンチから立ち上がりながら直人は呟いた。
「おれの家には無いシャンプーだなあ」
と、傘のえを掴んだ直人の左手の親指に何かが触れた。とても小さくて堅い物だった。
「ん?何だこれ」
道の途中で直人は立ち止まった。そして傘のえの部分に目を落とした。
「あ?」
通り過ぎて行く車の音に混じって直人は声をあげた。そこには、
「キティチャン?」
が象られたキーホルダーがくっついていた。
「おいおい、おれこんなもん差し手帰らなきゃいけないのかー?ったく西山のやつ・・・」
その時同じように傘をさした老人が歩いてきたので直人は左にさっと避けた。
「まっ、いっか」
老人が通り過ぎると、直人はやっと何かを納得したように自分に言い聞かせると再び歩き出した。この強い雨に流されてしまったのか、あのほんのり甘いシャンプーの香りは今はもう無くなっていた。
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