シーソーが揺れてる
「あのさこの27小節目なんだけどさあ」
「あーここ?」
広美が指さしたところを、春香は傷口を見るような目で見つめた。
「うん。どう入れるんだっけ?」
春香は少し間を置くと、その部分に記されたところをたんたんと口ずさんだ。
「って感じじゃなかったっけ?」
「うんそんな気がする」
「あんた元合唱部なんだから楽譜の読み方ぐらい分かるでしょう」
「だってもう1年も楽譜読んでないから忘れちゃうよ」
「まあ、それもそうね」
「てか春ちゃんだってこの前ソステヌートって何だったっけって私に聞いてたじゃない。元音大生なのに」
そっ、そういえばそうだったかも・・・。春香の体をじわーっと恥ずかしさが包み汗が滲みそうになる。
「あんた、そういうどうでもいいようなことはよーく覚えてるのね」
「春ちゃんだって音楽用語は忘れてるのにポケモンのロケット団の登場の台詞とかヌーベーが鬼の手を出す時の呪文は今でもちゃんと覚えてるよね。あとモーニング娘のメンバーの名前とか」
「うるさい!ほらさっさと支度して5時半には出るわよ」
春香はふくれっ面を広美に見せるとすたすたとベッドの方へと走って行った。を
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