夏休みの恋人
彼女の顔が、見えない。わからない。
確かに視えているのに、霧のように視えない、不可思議な感覚。
俺の意識とは無縁に、俺の口は動く。
何故なら、これは夢だから。
夢の中の俺、否、あの時の俺は彼女に訊いた。
『あんた、誰?』
彼女の表情が、変わった。
だけど変わったことはわかるのに、やっぱり見えない。
どんな表情なのか、わからない。
ただ彼女のその表情を見た俺は、頭だけでなく、何故か胸も痛い気がした。
彼女は言った。
『………大丈夫』
言っている言葉はわかるのに、何故か彼女がどのような声なのかがわからない。
彼女の顔も、声も、わからない。
ただ紅い髪の色だけが、その世界には鮮烈に映る。
『まだ寝てなきゃダメ。………ね、眠って』
嫌だ。
咄嗟にそう思った。叫んだのかもしれない。
俺の意志とは無関係に、俺は睡魔に襲われる。
嫌だ、君の顔を見せてくれ。
白とオレンジの世界が、黒に染まる。
まだ俺は、君を思い出せないんだ。
夢の中で俺は、眠りに落ちる。
待ってくれ。
次に目を開けた時には、彼女がいないことを、俺は嫌というほどわかっていた。
―――――君は、誰なんだ。
意識を手放す寸前、彼女の声が聞こえた気がした。
その言葉も、忘れてしまったけれど、彼女が自分の名を呼んでくれたことだけは、覚えている。
『……… 、ケイ………』
確かに視えているのに、霧のように視えない、不可思議な感覚。
俺の意識とは無縁に、俺の口は動く。
何故なら、これは夢だから。
夢の中の俺、否、あの時の俺は彼女に訊いた。
『あんた、誰?』
彼女の表情が、変わった。
だけど変わったことはわかるのに、やっぱり見えない。
どんな表情なのか、わからない。
ただ彼女のその表情を見た俺は、頭だけでなく、何故か胸も痛い気がした。
彼女は言った。
『………大丈夫』
言っている言葉はわかるのに、何故か彼女がどのような声なのかがわからない。
彼女の顔も、声も、わからない。
ただ紅い髪の色だけが、その世界には鮮烈に映る。
『まだ寝てなきゃダメ。………ね、眠って』
嫌だ。
咄嗟にそう思った。叫んだのかもしれない。
俺の意志とは無関係に、俺は睡魔に襲われる。
嫌だ、君の顔を見せてくれ。
白とオレンジの世界が、黒に染まる。
まだ俺は、君を思い出せないんだ。
夢の中で俺は、眠りに落ちる。
待ってくれ。
次に目を開けた時には、彼女がいないことを、俺は嫌というほどわかっていた。
―――――君は、誰なんだ。
意識を手放す寸前、彼女の声が聞こえた気がした。
その言葉も、忘れてしまったけれど、彼女が自分の名を呼んでくれたことだけは、覚えている。
『……… 、ケイ………』