夏休みの恋人
なんとなく気になって、教室に入り、そろそろと少女に近づいた。

音を立てないように気を付けていたのに、古びた教室の床が、ぎしり、と俺の侵入を知らせた。

ぎくりとしたが、少女は身動きひとつしなかった。



………寝てるのか?



気を取り直してそのまま近寄り、椅子をそっと引いて、少女の手前の席についた。



少女はやはり眠っていたらしく、微かに静かな寝息が聞こえる。


無意識に少女の髪をしげしげと見ていた。

艶やかな、染めたことなんてなさそうな、綺麗な黒い髪。

紅い色ではないことに勝手に幻滅している自分に気付き、我ながらうんざりした。



…………何を期待してたんだ、俺は。



見知らぬ少女にそれ以上の用なんてものは勿論なく、それなのに俺はその場に留まっていた。



じっと、静かに眠る少女を見守っていた。



…………これと同じ情景を、みたことがある気がした。
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