夏休みの恋人
淳一が夏休み前と変わったことくらい、わかる。



親友だから。



しかし淳一はわけがわからないといったようにきょとんとしているから、俺はさらに突っ込んだ。


「最近暇があったら5組に行ってる。彼女だろ?」

「ああ、あれか……気付いてたんだ、慶」

「あれだけこの教室からいなくなってたら、いくらオレでも勘づくっつーの。で?5組の誰よ。斉藤さん?おまえ休み前狙ってたろ」

「違うし。……それに、彼女じゃねーよ」

「じゃあ何だよ」


ふと、淳一は視線を窓の方へ向けた。

虚空に向けた目はぼんやりとして、何か深い考えに沈んでいる。



夏休みが明けてから、淳一は度々こんな目をするようになった。



夏休み前まで俺はこんな淳一を見たことがなかった。



こんな淳一を、俺は初めて知った。



こんな淳一を見ている時、何故か俺は、俺が確かに二ヵ月の記憶を失っていたのだと実感するのだ。
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