夏休みの恋人
「夏休みのオレが、淳一に預けたんじゃないかと思って……」



『夏休みの俺』だなんて、まるで他人みたいだ。



内心俺は皮肉気にふっと笑った。


「いや、預かってねーけど……どんなノート?」

「ちょっと小さめの、葉書大の大きさでー……表紙は黒で、隅の方にオレ好みのカッコいいエンブレム描いてるー……」

「……っ」


一瞬、淳一が驚いたように見えた。

だけど瞬きの間に淳一はいつもの顔に戻っていた。



………気のせいか?



「……いや、おまえからは何も預かってねぇな。でも俺も覚えてないかもだし、一応部屋見とくわ。夏休みおまえ、俺ん家来たし」

「あ、そうなんだ。なら頼むわ……」



なんとなく、淳一が言っているのは言い訳のように思えた。
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