逃げる女
追い付かれたくなくて、上の階に逃げたんだよ。まさか上に逃げるなんて思わないでしょう?



『次の日の卒業式にも来なかったし。ずっと気になってた。』



謝って楽になりたかった?許しを得て、スッキリしたかった?



『あの時はごめん!ずっと気に病んでたんだ。あの日の事。』



「………」





『ずっと探してた。北海道のどの大学に進んだのか担任に教えてもらって。何度も来たんだ。』



「来たって…?」



『夏休みに冬休みに春休み…連休の度にこっちに来ては嘉島の大学に通いつめてた。』


「そんな…だって私もほぼ同時期に休みに入るのよ?」


『うん。でももしかしたら会えるかもしれないと思って。図書館とか…一日中待ってた。』



「図書館…」



私が本好きだったから?



『その内さ、毎回来るより俺も住めばいいんだって思い始めて、3年にあがる時に編入試験受けて北海道に住み始めた。さすがに同じ大学は学力的に無理だったけど…』



「うそ…でしょ?」



おもむろに財布から何かを取り出す森田君。
差し出された物を見てみると、それは学生証で確かに私の通う大学から近い別の大学の物だった。



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