逃げる女
『…泣くなよ。』


「え?」




部屋の中はそんなに広くない。


充が一歩進めば、すぐに縮まる距離。


『落ち着くまで側にいてやるから。』



そして私の頭を優しく撫でてくれる。


その優しい手つきに泣けてくる。


私を大事に扱ってくれる。


そう思うと充に対して愛しい気持ちでいっぱいだよ。



もっと優しくして欲しい。触れて欲しい。



私は充の胸元に頭をこつんと置いた。



『美里?』



「…少しだけ…こうしてて。」



充は私が好きだって言ったらどうする?


きっともう、こんな風に心配して家になんて来てくれなくなるよね。



急に後ろへ手を回されて抱きしめられる。


心臓の音が、一気に早く大きくなる。



『…なんか、今日の美里いつもと違うな。』



頭の上から聞こえる声にドキッとした。
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