逃げる女
『朋美?』


店長に呼ばれ、はっとする。


「お水!出して来ます。」


いけない。また店長に心配かけるところだった。


ホールへ出て、グラスをトレーに置こうとする。


『嘉島さん。俺がやるんでいいっすよ。』


岡島君が、メニュー表を脇に挟み近寄ってきた。


何人来たのか、座った席を確認しようと、お客さんを見た。






ドクンっ





『嘉島さん?』





なんで…





ドクンっ







どうして?







ここは、私の育った街ではない。それなのにどうしているの?






『これから、森田も北海道民か!』






森田…




間違いであって欲しい。






ドクンっ






『嘉島さん!?』




動けずにいる私に声をかける岡島君。
こんなに近くにいるのに、やけに声が遠く聞こえる。






『すみませーん!』



手を挙げてこちらを見た来客者。



「―ッ!!」


咄嗟に後ろを向いて顔を逸らす。



『はい!ただ今!』



私から、水の入ったグラスを奪い、岡島君がそちらへ向かう。



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