キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
大いなる回廊ニーベルングのリング状大地が抱く内部上空。

星々が漂う真空の広大な空間をすみかとし、暮らしているのがドラゴンだ。


真空中で生活するドラゴンの強固な体は、地上の人間が作った鋼の武器では傷一つつけることができない。

もしも襲われたならば人間にとってとてつもない脅威となるが、
ドラゴンたちは大気のある地上には滅多に降りてくることもなく、
意図的に地上の生き物との接触を避けているのか、天空船で内部上空を航行しても遭遇することは稀で、仮に間近に遭遇しても襲われたという話は聞かない。

それこそおとぎ話や伝説の中でしか、地上の人間との接点などない生き物だった。


そんな天空の生物が、どうしてこんな火山の火口に陣取っていて、しかも出会うなり自分たちに襲いかかってきたのか──

──いくら考えてみてもキリにはさっぱりだったが、

三百の軍隊も、地上に住む人間の宮廷魔術師も、生きてもどれなかった理由は目の前にあった。


「ムリムリムリムリ」

ラグナードの赤いマントを引っぱって、キリは頭がとれそうなほど激しく左右に首を振った。

「逃げよー。わたしなんかの魔法じゃ勝てっこない」

液体窒素の吐息をよけられたドラゴンは空中で体を反転させ、強力な尾を鞭(むち)のようにしならせて騎杖をたたき落とそうとする。

遠心力が加わった高速の一撃を、戦場の空中戦で鍛え抜いた動体視力で見切ってくぐり抜け、

「ここまで来て──」

ラグナードは騎杖ですれ違いざま、

「引き返せるかッ!!」

手にしたレーヴァンテインで、やわらかそうなドラゴンの翼膜を狙って斬りつける。

「うそぉ!?」

絶望的な思いでキリが上げた悲鳴に重なって、剣のはじかれる澄んだ音が冷たい空気の中で鳴った。

「ばかばか! ラグナードのばか!
天の人に刃を向けるなんて──もう終わりだぁ」

ラグナードの背中をぽかぽかなぐりつけながら後ろで騒ぐキリを無視して、

「レーヴァンテインでも、斬れない──!?」

ラグナードは、傷一つつけられなかったドラゴンの翼を振り仰いで奥歯をかんだ。


昨夜、この剣が石を焼き切った時には、氷の怪物相手には有効なのではと期待したが、

いかに甘い考えだったか悟らされた。

パワーアップの意味などないじゃないか! と、毒づきながら騎杖の体勢を立て直し──


ドラゴンに向き直った瞬間、


目の前に、大きく顎(あぎと)を広げたドラゴンの口があった。

液体窒素の噴射が襲いかかる。


よけきれない──

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