キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
かっと、ラグナードの頭に血が上る。


『貴様によって、この土地のすべての赤子や幼子も命を奪われた!
彼らを殺すに値するどんな罪があると言うのか! 答えよ!!』


のどから血を吐くほどの声でたたきつけたその問いかけに、ドラゴンは笑っているかのような低いうなり声をもらして、


『我が怒(いか)りに臆(おく)さず、民がためそなたもまた怒(いか)り立ち向かうか地上の王の子よ。
その気高き覇気(はき)に敬意を表して答えよう』


絶対零度の復讐の炎をたぎらせた視線が、ラグナードを刺し貫いた。


『天の人たる我が誇りを傷つけた罪だ』


天空を吹き荒れる冷たい風のような声音で、ドラゴンはそう答えた。


『なに──!?』


『この国のすべての民を殺し尽くすまで、決して許さぬ!』


高らかに恐ろしい宣言をして、ドラゴンは咆吼を上げた。


天候を操る強大な魔力によって、晴れ渡っていた空があっというまにくもり、

猛吹雪がラグナードとキリの乗った飛行騎杖に襲いかかった。


『誇りを傷つけたとはどういうことだ!?』

風に吹き飛ばされそうになる杖を必死に操りながら、ラグナードは吹雪に負けじと声を張り上げて尋ねたが、

もはや問答は無用ということなのか、白い竜は氷のように冷徹に何も答えず、二人に向かって極寒の息を吐きかけた。


突風に逆らわず利用して、杖をひらりと斜めに旋回させ、ラグナードはドラゴンの魔法の吐息をよける。


「ラグナード、わたしの魔法なしでもしばらく氷の魔法をよけて飛べる?」

背中からキリが訊いた。

「しばらく人工魔法核を使って一人で飛んで、『あの人』を引きつけておける?」

「ああ。なにか考えがあるのか?」

ドラゴンから距離をとって飛びつつ、ラグナードは聞き返す。

「うまく行くかわかんないけど──天の人をなんとかするなら、これしか方法がない」

ラグナードがたった一人で世界中を探し回って、自分を訪ねてきた理由がはっきりして、キリはほほえみながら言った。

「きっと、わたしがなんとかしてあげる」

庶民を見下した態度ばかりとってはいるけれど、天の人が「気高い」と称したように、ラグナードは国民のことを憂い、国民のために怒ることのできる、温かく優しい心を持った人間だった──

そうわかって、キリはうれしくなった。

「わたしを火口のふちに降ろして」

と、彼女はそんなことを言った。

「火口に……?」

「うん。ラグナードは、天の人が火口の真上に来るように引きつけておいて。
心に言葉を送るから、わたしが合図したら天の人から離れてね、いい?」

「よし、わかった」

キリが何をしようとしているのかわからなかったが、ラグナードは飛行騎杖を操り、ドラゴンの翼をかわして火口のふちに杖を降下させた。
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