キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
少女を杖から降ろし、懐から人工魔法核を取り出してケースを投げ捨てる。
砂時計の残された砂が輝き、最後のフライトの力が杖に注ぎ込まれた。
ふたたび氷の竜が待ちかまえる上空へと舞い上がりながら、
歩兵を送りこんだのはまちがいだったと、ラグナードは遅い後悔の念を抱いた。
雪の降り積もった足場の悪い地上で、
上空から液体窒素の噴射を浴びせられたら、兵士に逃げきるすべはない。
三百の兵をみすみす死なせてしまった。
この飛行騎杖も、もしも特注品ではなく普通の性能しかなければ、最初の一かみすらよけることができなかっただろう。
あんなものと戦うには、戦闘騎杖が要る。
戦闘騎杖の空中での機動力があったとしても、果たして勝てるのかはわからなかったが。
ラグナードはレーヴァンテインをかまえ、おとぎ話の中にしばしば登場するドラゴンの弱点を狙って、吹雪の中、白い巨躯に接近を試みた。
レーヴァンテインでもドラゴンの体が斬れなかったのには心がくじけそうになったが、羽毛に当たって折れなかっただけマシだと思うことにした。
「我が翼に触れてなお折れ飛ばぬ剣」と、ドラゴンは口にした。
つまり普通の武器であれば、やわらかそうな羽毛や翼膜でも、斬りつけただけで粉々に折れ飛んでしまうということなのだろう。
武器が通用しない。
しかも──
キリの話によれば、「魔法使いを魔法で滅ぼすには、その魔法使いをしのぐ魔力を持っていることが最低条件」なのだ。
広大な大地を凍りつかせる力を持った天空の大魔術師に、地上の人間のどんな魔法使いが並べるというのだろうか。
いかなる魔法もまた、通用しない。
目の前にいる白い生き物は、なにをどうしようが人間には決して勝てぬ相手だということだった。
それでも、
自分が見つけた魔法使いに何か策がある様子ならば、賭けてみるしかない。
ドラゴンの頭へと向かって一直線に飛びながら、ラグナードはドラゴンが魔法の息を吐きかけてくるのを待つ。
ただ竜の注意を引きつけてキリの策を指をくわえて待っている気など、ラグナードにはさらさらなく、彼自身もでき得る限り立ち向かうつもりでいた。
牙の並んだ顎が大きく開く。
吹きつけた氷の炎を、ぎりぎりでかわしながら騎杖の速度を音速まで上げ、
吐息を吐いた後の一瞬の隙を狙って、
ラグナードは手にしたレーヴァンテインで、人の頭よりも大きな青い瞳を貫き通した。
砂時計の残された砂が輝き、最後のフライトの力が杖に注ぎ込まれた。
ふたたび氷の竜が待ちかまえる上空へと舞い上がりながら、
歩兵を送りこんだのはまちがいだったと、ラグナードは遅い後悔の念を抱いた。
雪の降り積もった足場の悪い地上で、
上空から液体窒素の噴射を浴びせられたら、兵士に逃げきるすべはない。
三百の兵をみすみす死なせてしまった。
この飛行騎杖も、もしも特注品ではなく普通の性能しかなければ、最初の一かみすらよけることができなかっただろう。
あんなものと戦うには、戦闘騎杖が要る。
戦闘騎杖の空中での機動力があったとしても、果たして勝てるのかはわからなかったが。
ラグナードはレーヴァンテインをかまえ、おとぎ話の中にしばしば登場するドラゴンの弱点を狙って、吹雪の中、白い巨躯に接近を試みた。
レーヴァンテインでもドラゴンの体が斬れなかったのには心がくじけそうになったが、羽毛に当たって折れなかっただけマシだと思うことにした。
「我が翼に触れてなお折れ飛ばぬ剣」と、ドラゴンは口にした。
つまり普通の武器であれば、やわらかそうな羽毛や翼膜でも、斬りつけただけで粉々に折れ飛んでしまうということなのだろう。
武器が通用しない。
しかも──
キリの話によれば、「魔法使いを魔法で滅ぼすには、その魔法使いをしのぐ魔力を持っていることが最低条件」なのだ。
広大な大地を凍りつかせる力を持った天空の大魔術師に、地上の人間のどんな魔法使いが並べるというのだろうか。
いかなる魔法もまた、通用しない。
目の前にいる白い生き物は、なにをどうしようが人間には決して勝てぬ相手だということだった。
それでも、
自分が見つけた魔法使いに何か策がある様子ならば、賭けてみるしかない。
ドラゴンの頭へと向かって一直線に飛びながら、ラグナードはドラゴンが魔法の息を吐きかけてくるのを待つ。
ただ竜の注意を引きつけてキリの策を指をくわえて待っている気など、ラグナードにはさらさらなく、彼自身もでき得る限り立ち向かうつもりでいた。
牙の並んだ顎が大きく開く。
吹きつけた氷の炎を、ぎりぎりでかわしながら騎杖の速度を音速まで上げ、
吐息を吐いた後の一瞬の隙を狙って、
ラグナードは手にしたレーヴァンテインで、人の頭よりも大きな青い瞳を貫き通した。