キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
断末魔の絶叫を上げ、
煮えたぎる溶岩の海で暴れ狂いのたうちながら、ドラゴンの体が炎に包まれ噴火口に沈んでゆく。
「霧の魔法で、地下深くまで大地を消し飛ばして──火口を開いたのか……!」
腰の鞘に剣を納めながら、ラグナードは畏怖をこめて霧の魔法使いを見下ろした。
キリが使ってみせた魔法は、彼には火口を凍らせたドラゴンにも匹敵する大魔法に思えた。
ふと、ラグナードの目は、崩れ落ちるようにしてその場に倒れる少女の姿をとらえた。
「キリ!?」
空から呼びかけてみるが、ピンクの髪の少女は倒れ伏したまま動かない。
動けないのだ、
と、ラグナードはキリの言葉を思い出して気づく。
大きなものを消したら、すぐに疲れて眠たくなる。
マグマの層まで届く地下までの岩盤と、
上空のドラゴンと火口を結ぶ距離と、
今、キリが霧の魔法で消したものは、未熟な若い魔法使いを疲労困憊させて全身の体力を奪うのに十分すぎるものだった。
「おい! 逃げろ!」
竜を飲み込み火口からあふれ出した灼熱のマグマは、見る見るうちに流れて横たわる彼女のもとに迫る。
しかし逃げろと言われても、体力と気力の限界まで魔法を使ったキリにそんな力はもはや残されていなかった。
迫り来る熱く溶けた岩石の流れを見つめてキリは血が凍った。
「やだ……わたし、死んじゃうよ……」
必死に起き上がろうともがいて、
脳裏にうかんだのは、優しい青年のほほえみだった。
「やだ……助けて……」
彼女がこの世で唯一すがることのできる存在に手を伸ばし、
ロキ──
最愛のその名を心の中で呼んで、
キリは覆いかぶさってきた真っ赤なマグマに、悲鳴を上げて目を閉じた。
上空では、
吹き上がる溶岩をよけて飛行騎杖を飛ばしながら、動かない少女にラグナードは舌打ちした。
助けに行こうとするが、火口から飛び散るマグマから自らが逃げ回るだけで手一杯だった。
勢いを増し、倒れたキリのもとへマグマが一気に押し寄せる。
「くそ!」
小さな体を、一瞬で溶岩が飲み込む。
直前で、
溶岩をよけながら飛行騎杖を地上すれすれまで下降させたラグナードが、引っさらうようにキリをつかんで空へと逃れた。
煮えたぎる溶岩の海で暴れ狂いのたうちながら、ドラゴンの体が炎に包まれ噴火口に沈んでゆく。
「霧の魔法で、地下深くまで大地を消し飛ばして──火口を開いたのか……!」
腰の鞘に剣を納めながら、ラグナードは畏怖をこめて霧の魔法使いを見下ろした。
キリが使ってみせた魔法は、彼には火口を凍らせたドラゴンにも匹敵する大魔法に思えた。
ふと、ラグナードの目は、崩れ落ちるようにしてその場に倒れる少女の姿をとらえた。
「キリ!?」
空から呼びかけてみるが、ピンクの髪の少女は倒れ伏したまま動かない。
動けないのだ、
と、ラグナードはキリの言葉を思い出して気づく。
大きなものを消したら、すぐに疲れて眠たくなる。
マグマの層まで届く地下までの岩盤と、
上空のドラゴンと火口を結ぶ距離と、
今、キリが霧の魔法で消したものは、未熟な若い魔法使いを疲労困憊させて全身の体力を奪うのに十分すぎるものだった。
「おい! 逃げろ!」
竜を飲み込み火口からあふれ出した灼熱のマグマは、見る見るうちに流れて横たわる彼女のもとに迫る。
しかし逃げろと言われても、体力と気力の限界まで魔法を使ったキリにそんな力はもはや残されていなかった。
迫り来る熱く溶けた岩石の流れを見つめてキリは血が凍った。
「やだ……わたし、死んじゃうよ……」
必死に起き上がろうともがいて、
脳裏にうかんだのは、優しい青年のほほえみだった。
「やだ……助けて……」
彼女がこの世で唯一すがることのできる存在に手を伸ばし、
ロキ──
最愛のその名を心の中で呼んで、
キリは覆いかぶさってきた真っ赤なマグマに、悲鳴を上げて目を閉じた。
上空では、
吹き上がる溶岩をよけて飛行騎杖を飛ばしながら、動かない少女にラグナードは舌打ちした。
助けに行こうとするが、火口から飛び散るマグマから自らが逃げ回るだけで手一杯だった。
勢いを増し、倒れたキリのもとへマグマが一気に押し寄せる。
「くそ!」
小さな体を、一瞬で溶岩が飲み込む。
直前で、
溶岩をよけながら飛行騎杖を地上すれすれまで下降させたラグナードが、引っさらうようにキリをつかんで空へと逃れた。