キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
言いながら、紳士は腰に帯びた細い剣の柄にそっと手をかける。
「ゼノリス殿下は、隣国との平和を望み父親の仇を討とうとしない兄君に業を煮やしておいでだったのだ。
父君である先王を殺したガルナティスの王子ラグナードを、この手で殺さねば気が晴れぬと仰せでな。
じゃまな兄君にはご退場願ったというわけだ」
さて、とギラギラ光る冷たい鋼を抜きながら、紳士は紫の髪の子供を見下ろして言った。
「よけいな詮索をしたおまえにも、ご退場願おうか」
くくっ、と子供ののどから笑い声がもれた。
「詮索せずとも、初めから口封じに殺すつもりだったくせに。
おまえらのようなガキの考えることは、ようくわかってるさ」
剣を横目に見ながら、紫色の髪の少年は怖がる様子もなく、紳士を無視してそのまま部屋を出て行こうとする。
その小さな背中を貫き通そうとして、
紳士は苦鳴を上げて床にたおれこんだ。
「な……なんだ……?」
「ベニヒカリタケの毒だよ」
背伸びをしてドアノブに手を伸ばしながら、冷たい青い目で少年はふり返った。
「国王陛下の毒殺に使ったのとおんなじ毒さ。光栄に思うがいいよ」
「そ……そんな……いったい、いつ……?」
「ガキの考えることはお見通しだと言ったろ。
初めにおまえが暗殺の依頼をしてきた時さ。握手して触れた際に、毒の魔法をかけておいた。
あとは儂の好きな時に──ホレこのとおり、毒の効き目を与えることができる」
急速に全身がマヒし、呼吸困難に陥って床の上で喘ぐ男を見下ろして、「魔法使いをあなどったな」と紫の髪の少年は笑った。
「儂の毒の魔法は、そこらの魔法使いが使うものとはひと味違うぞ」
「た……たすけてくれ。悪かった……!」
必死に懇願する貴族に背を向け、少年はドアノブを回して扉を開ける。
「ムリだねえ。
おまえには、ベニヒカリダケの毒を数百倍に濃縮した特別製をプレゼントしてやった。残念だがどんな解毒の魔法も間に合わんよ」
言い置いて、
死にゆく男を残し、子供は部屋を出て扉を閉めた。
ただちに王都を離れ、オリバイン王国を後にするため街道を急いでいた紫色の髪の子供は、
街道が王都トパゾスを囲む森の中へとさしかかったところで足を止めた。
「儂に何か用かい?」
ふり返った先には、若い男が一人立っている。
「見たところ、この国の者ではないね」
幼児らしからぬ大人びた口調と、理知的な瞳でそう言って、
「おまえ、王都からずっと儂をつけてきたろう」
子供は、街道のまん中に立っているその若者の、珍妙な格好をじろじろとながめた。
「ゼノリス殿下は、隣国との平和を望み父親の仇を討とうとしない兄君に業を煮やしておいでだったのだ。
父君である先王を殺したガルナティスの王子ラグナードを、この手で殺さねば気が晴れぬと仰せでな。
じゃまな兄君にはご退場願ったというわけだ」
さて、とギラギラ光る冷たい鋼を抜きながら、紳士は紫の髪の子供を見下ろして言った。
「よけいな詮索をしたおまえにも、ご退場願おうか」
くくっ、と子供ののどから笑い声がもれた。
「詮索せずとも、初めから口封じに殺すつもりだったくせに。
おまえらのようなガキの考えることは、ようくわかってるさ」
剣を横目に見ながら、紫色の髪の少年は怖がる様子もなく、紳士を無視してそのまま部屋を出て行こうとする。
その小さな背中を貫き通そうとして、
紳士は苦鳴を上げて床にたおれこんだ。
「な……なんだ……?」
「ベニヒカリタケの毒だよ」
背伸びをしてドアノブに手を伸ばしながら、冷たい青い目で少年はふり返った。
「国王陛下の毒殺に使ったのとおんなじ毒さ。光栄に思うがいいよ」
「そ……そんな……いったい、いつ……?」
「ガキの考えることはお見通しだと言ったろ。
初めにおまえが暗殺の依頼をしてきた時さ。握手して触れた際に、毒の魔法をかけておいた。
あとは儂の好きな時に──ホレこのとおり、毒の効き目を与えることができる」
急速に全身がマヒし、呼吸困難に陥って床の上で喘ぐ男を見下ろして、「魔法使いをあなどったな」と紫の髪の少年は笑った。
「儂の毒の魔法は、そこらの魔法使いが使うものとはひと味違うぞ」
「た……たすけてくれ。悪かった……!」
必死に懇願する貴族に背を向け、少年はドアノブを回して扉を開ける。
「ムリだねえ。
おまえには、ベニヒカリダケの毒を数百倍に濃縮した特別製をプレゼントしてやった。残念だがどんな解毒の魔法も間に合わんよ」
言い置いて、
死にゆく男を残し、子供は部屋を出て扉を閉めた。
ただちに王都を離れ、オリバイン王国を後にするため街道を急いでいた紫色の髪の子供は、
街道が王都トパゾスを囲む森の中へとさしかかったところで足を止めた。
「儂に何か用かい?」
ふり返った先には、若い男が一人立っている。
「見たところ、この国の者ではないね」
幼児らしからぬ大人びた口調と、理知的な瞳でそう言って、
「おまえ、王都からずっと儂をつけてきたろう」
子供は、街道のまん中に立っているその若者の、珍妙な格好をじろじろとながめた。