キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
すらりと細身の二十代の青年は、暑くなり始めた季節だというのに、あちこちベルトで装飾が施された目が覚めるような派手な水色のコートを着ていた。

頭髪の色は火のようなオレンジで、明るい陽光に照らされた水色のコートとの組み合わせは、見ているだけで目が痛くなりそうだ。

ややうつむき加減の白い顔は、日差しで目元が影になって見えないが、それでもたぐいまれなる美貌の持ち主であることが知れる。


そして、

青年は右の手に、銀に輝く大きな杖を持っていた。


「魔法使いのようだね。何者だ?」

「おまえこそ何者だよ、坊や」


薄い唇をつり上げてくつくつと笑いながら、水色のコートの若者は口を開いた。


「見てたぜ? 坊やみたいなガキが、白昼堂々、王様の暗殺をやってのけるとは恐れ入った。
しかも──普通の魔法使いにゃ、とてもとても使えないような猛毒の魔法を、呪文なしときてるんだからな」


気安い口調で言うその言葉は、紫の髪の子供が口にしているのと同じリンガー・ノブリスだった。


「そういうマネができる魔法使いに、一人だけ心当たりがあるんだが……」

と、若者は大げさなしぐさで肩をすくめた。

「聞いた話じゃ、その魔法使いは二百歳近いジジイのはずなんだよなぁ」


少年の表情が険しくなる。


「そいつはエスメラルダではちょいとした有名人でね。
お尋ね者になってるんだが……その罪状が凄いぜ? 何をしでかしたと思う?」

若者はニヤニヤしながら言った。

「聞いてびっくりだ!」

芝居かかった動作で、彼は水色のコートの両腕を広げた。



「なんと──魔王様を召還した罪だとよ」



言い放った青年の顔からは、笑いが消えていた。

じっと、彼は観察するかのように目の前の子供を見つめていた。



「魔王! 魔王だと……!」

紫色の髪の子供は、怒りと屈辱に顔を赤く染めて奥歯をギリギリと鳴らした。

「いまいましい! あのクソ悪魔が!」

憎しみをこめて吐き捨てて、それから子供は警戒の色がにじんだ瞳で目の前の魔法使いをにらんだ。

一国の宮廷魔術師にしか持つことができないような高価なしつらえの杖と、どう見ても貴族には見えないその若者の格好とを見比べる。


「──ああ。自己紹介してなかったな」

水色のコートの袖口(そでぐち)から、若者は銀のペンダントを取り出して見せた。

銀の鎖の先にぶら下がった、双頭の鷲のエンブレムを目にして──


「小僧、やはり教国の魔法使いか」


子供は目を細めた。

双頭の鷲は魔法教国エスメラルダの紋章だった。


「『小僧』ねェ……どう見てもおまえのほうが小僧だけどな」

水色のコートはまた肩をすくめて、


それから、

うつむいていた顔を上げ、青年は美しい目もとを白日の下にさらして、名を名乗った。


「俺様はアルシャラ」

──と。
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