キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
優しそうにほほえむその瞳の色を見て、紫の髪の子供は息をのむ。

「跋折羅眼(バザラがん)──」

緑に赤に青に紫に……それは太陽の光を受けてダイヤモンドのように七色に輝く不思議な瞳だった。

「その目を持っているのはいつの時代でも世界中の魔法使いでただ一人、エスメラルダ教皇のオズ猊下(げいか)だけのはず──」

目を大きく見張って、アルシャラと名乗った若者の虹色の瞳を見つめ、

やがて何かに納得した様子で「なるほど」と子供はつぶやいた。


「儂もおまえのことを聞いたことがあるよ、アルシャラ。
世界中を回り『他人の魔法を奪って』、ここ数年で急速に力をつけたガキがいるとね。

表では火炎使いの【青星のアルシャラ】と呼ばれているが──もう一つの名を【魔法喰いの天狼】」


子供が口にした異名を聞いて、アルシャラがぺろりと唇をなめた。


「ただの噂だと思っていたが、その跋折羅眼が魔法喰いの証ということかい」

子供は小さく舌打ちして、

「エスメラルダが儂に差し向けた追っ手がきさまか、魔法喰いの天狼」

「まさか」

アルシャラは眉を持ち上げて、虹色の目を大きくした。

「俺様はたまたま通りかかっただけさ。
パイロープが面白いことになってるって話を聞いたんで、ちょいと力を貸してやろうかとガルナティス王国に向かう途中で、もっと面白いものに出くわしたってワケ」

「ならば、パイロープとやらに用があるんだろ。
儂など放っておいて、とっととそっちに向かったらどうだい?」

「うーん」とわざとらしくうなって、アルシャラはふくみ笑いをもらす。

「パイロープは逃げねーけど、おまえは逃げる気マンマンみたいだからなあ。
せっかく見つけた獲物を逃がすなんて、もったいないだろ? なあ、坊や」

虹色の瞳にギラギラした肉食獣の光を灯して、アルシャラは、


「坊やのことは──【霧のシムノン】……いや、【毒のシムノン】と呼んだほうがいいかな?」


と、目の前の紫の髪の五歳児に言った。


人形のような無表情で不気味に黙りこんだ子供を、虹色の瞳はなめ回すように見た。

「興味があるなァ。本当に『霧の五大公』の一人を召還したのか? 召還したからには、何か契約を結んだんだろ? 何を願ったんだ?」

沈黙したまま答えない子供に、矢継ぎ早に問いを投げて、

「ああ、そうそう」

アルシャラは何かを思い出したように、オレンジの髪をかいた。

「少し前に、昔のおまえの家に行ってみたんだが、そこでかわいい女の子に会ってね。キリっていうコなんだけど」

その名前を耳にしたとたん、シムノンと呼ばれた子供の目はふたたび憎悪の色を帯びた。
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