キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
「おまえが魔王召還のためにエスメラルダから連れ出したって話の、例の霧の属性の弟子だろ?
ヘンな感じだったなァ、あの子。
喰おうとしたんだが……あれだけすごい魔法を使うのに、強い魔法は一つもあの子の中にはなかったんだ。
まるで──『自分のものではない借り物の力』でも使ってるみたいだった。
おまえらが呼び出したっていう魔王様との契約と、なにか関係があるのかな?」
尋ねるアルシャラの虹色の視線の先で、
「キリ! あのクソガキ! 儂の契約をメチャクチャにしおって……!」
子供は憎しみにゆがんだ表情で歯がみした。
それから子供は、少し興味を動かされた様子で魔法喰いの天狼を見た。
「喰おうとしたと言ったね。キリをどうした? 殺したかい」
「俺様を殺人鬼扱いしないでほしいなあ」
アルシャラは心外そうに首を振った。
「魔法を喰えないのに、あんなかわいいコを理由もなく殺すワケがねえだろ」
そう言って、アルシャラはどう猛な狼のように舌なめずりする。
「さて、おまえはどうかな。今度はちゃんと喰えるといいな」
ふん、と子供は鼻で笑った。
「なんだ、おまえ。お尋ね者の捕縛目的じゃあなく、儂の魔法を奪うのが目当てでトパゾスから後をつけてきたわけかい」
「あんな魔法を見かけたら、喰いたくて喰いたくてたまらなくなるに決まってるさ」
アルシャラは愉快そうに言って、手にした銀の大きな杖をかまえた。
「おまえもよく知ってるだろ、シムノン。エスメラルダの魔法使いは、常に己の欲望に忠実だ」
「魔法喰いの天狼。儂も、おまえがどうやって他人の魔法を奪うのかは、大いに興味があるね」
アルシャラはコートの下にやたらと露出度の高い服を着ていたが、服の胸元からのぞく魔法使いらしからぬ鍛えられた筋肉から、うすうすどのような方法か想像しながら、子供は言った。
「俺様が魔法を喰う方法か? 簡単だぜ」
とがった犬歯を見せて、アルシャラは笑い、
「物理的に喰うのさ」
少年の予想どおり、身も蓋もない腕ずくの──猟奇的な答えを返した。
「大のオトナと違って、おまえを押さえつけて喰うのはとっても簡単そうだ」
「青二才のガキが。やってみろ」
紫色の髪の下で、冷たい青い目があざ笑った。
「この毒のシムノンの血肉を一滴でも腹におさめれば、どうなるか──身をもって知るがいいさ」
「どうだろうねェ」
血に飢えた狼も、負けじと虹色の目を細めて笑う。
「俺様はこれまでに、宮廷医師を務める魔法使いの魔法も何人分も喰ったぜ?
中には齢百歳を超えた老練な宮廷魔術師もいた。
俺様の体には、ちょっとやそっとじゃ死なないように、治癒の魔法が山のようにかけてあるぞ」
ヘンな感じだったなァ、あの子。
喰おうとしたんだが……あれだけすごい魔法を使うのに、強い魔法は一つもあの子の中にはなかったんだ。
まるで──『自分のものではない借り物の力』でも使ってるみたいだった。
おまえらが呼び出したっていう魔王様との契約と、なにか関係があるのかな?」
尋ねるアルシャラの虹色の視線の先で、
「キリ! あのクソガキ! 儂の契約をメチャクチャにしおって……!」
子供は憎しみにゆがんだ表情で歯がみした。
それから子供は、少し興味を動かされた様子で魔法喰いの天狼を見た。
「喰おうとしたと言ったね。キリをどうした? 殺したかい」
「俺様を殺人鬼扱いしないでほしいなあ」
アルシャラは心外そうに首を振った。
「魔法を喰えないのに、あんなかわいいコを理由もなく殺すワケがねえだろ」
そう言って、アルシャラはどう猛な狼のように舌なめずりする。
「さて、おまえはどうかな。今度はちゃんと喰えるといいな」
ふん、と子供は鼻で笑った。
「なんだ、おまえ。お尋ね者の捕縛目的じゃあなく、儂の魔法を奪うのが目当てでトパゾスから後をつけてきたわけかい」
「あんな魔法を見かけたら、喰いたくて喰いたくてたまらなくなるに決まってるさ」
アルシャラは愉快そうに言って、手にした銀の大きな杖をかまえた。
「おまえもよく知ってるだろ、シムノン。エスメラルダの魔法使いは、常に己の欲望に忠実だ」
「魔法喰いの天狼。儂も、おまえがどうやって他人の魔法を奪うのかは、大いに興味があるね」
アルシャラはコートの下にやたらと露出度の高い服を着ていたが、服の胸元からのぞく魔法使いらしからぬ鍛えられた筋肉から、うすうすどのような方法か想像しながら、子供は言った。
「俺様が魔法を喰う方法か? 簡単だぜ」
とがった犬歯を見せて、アルシャラは笑い、
「物理的に喰うのさ」
少年の予想どおり、身も蓋もない腕ずくの──猟奇的な答えを返した。
「大のオトナと違って、おまえを押さえつけて喰うのはとっても簡単そうだ」
「青二才のガキが。やってみろ」
紫色の髪の下で、冷たい青い目があざ笑った。
「この毒のシムノンの血肉を一滴でも腹におさめれば、どうなるか──身をもって知るがいいさ」
「どうだろうねェ」
血に飢えた狼も、負けじと虹色の目を細めて笑う。
「俺様はこれまでに、宮廷医師を務める魔法使いの魔法も何人分も喰ったぜ?
中には齢百歳を超えた老練な宮廷魔術師もいた。
俺様の体には、ちょっとやそっとじゃ死なないように、治癒の魔法が山のようにかけてあるぞ」