キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
しっかし、と言ってアルシャラは苦笑した。

「まさか二百歳近い魔法使いがこんなガキの姿をしてたなんてな。シムノンさんよ、おまえの体は、いったいどうなってやがるんだ?
どおりで十年以上もエスメラルダの目をかいくぐって、逃げ続けられたわけだぜ」

「うるさい!」

一気に頭に血が上った様子で、シムノンはどなりちらした。


「あいらのせいで儂はこんな目に──!

絶対に許さんぞ……! キリも……あの悪魔も……覚えておれ……!
今に目にもの見せてくれるわ」


恨みをこめてその口からもれ出でた内容を聞いて、アルシャラは目つきを鋭くした。


「ふうん。何があったのかは知らねえが、おまえ、キリに何かする気なのか」

「だったらどうした! おまえには関係ないよ!」

「関係あるね。そういうことなら、毒のシムノンはこのアルシャラが、ここできっちり殺しておかなくっちゃあな」

「儂を殺すだと? かつてエスメラルダで賢者と呼ばれたこのシムノンが、おまえのような赤子同然のガキに殺されると思うか」

しゅうしゅうと不吉な音と煙を放ち、シムノンの周囲の地面が黒く変色してゆく。

同時に、アルシャラがかまえた杖の先端にも、青白い高温の炎が渦を巻いて現れた。

「おもしれェ。キリの霧の属性なしの、おまえの毒の属性だけで、紫電のル・ルーにも並ぶ俺様の炎にどこまで対抗できるものなのか……試させてもらおうか」


そう言って、

アルシャラは脳裏に、ピンク色の髪の少女のあどけない笑顔を思い描く。


「あのコのことは、この俺様が守ってやるって約束したからな」



人気のない森の街道で、二人の魔法使いの視線が火花を散らし──







──物語は、ふたたび一千キーリオメトルム離れたパイロープの地に戻る。







溶岩からのがれ、麓の町へと向かって騎杖を飛ばしながら、

「おい! しっかりしろ!」

ラグナードは腕に抱いたキリに呼びかけた。

「ケガをしていないか!? キリ!」

腕の中でキリが身じろいで、ピンクのまつげに縁取られたまぶたをゆっくりと開き、ラグナードの顔を見上げた。

「ラグナード……天の人は……?」

疲れきっているだけで、キリは特にケガをした様子はない。

ラグナードにつかまって立つキリを見て、ラグナードはほっと胸をなで下ろして、

「火口に落ちた」

彼女にドラゴンの末路を教えた。

「国が救われた、お前のおかげだ!」

「そっかぁ……」

弱々しく笑顔を見せて、

それからキリは、全力でラグナードにしがみついてきた。

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