キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
「お、おい……」

突然抱きつかれてラグナードはうろたえた。

「怖かった……わたし、あのまま死んじゃうのかと思った……!」

キリはラグナードの鎧の胸にひたいを押しつけて、ぽろぽろ涙をこぼしていた。

「ラグナードが助けてくれたの……?」

「……ああ」

「ありがとう」

泣きながらかたかたと腕の中で震え続ける少女を見て、ようやく──ラグナードは自分がとんでもない思い違いをしていたことに気づいた。


この子は、ただの女の子だ──。


強い魔法を使うことができて、魔法使い同士の命のやりとりをしたことがあると聞いて、
自然と彼は、戦いに慣れた者に対するように接してしまっていた。

まるで彼女が、国に仕える兵士か、宮廷魔術師であるかのように。


しかしこの少女は、彼のような軍人ではなく、

ただ森の奥で平和に暮らしていただけの女の子だった。


ラグナードは、祖国のためならばたとえここで命を捧げ死ぬことになってもかまわないと覚悟ができていた。


しかし、キリは違う。


命を狙われて否応なくただの一度きり死闘を経験しただけの女の子を、

常日頃から命を落とす覚悟をしているわけでもない、ただの年下の女の子を、


彼は、彼女には何の関係もない自分の国の戦いに連れてきたのだ──。




安全な麓の町に着いてキリと一緒に飛行騎杖から降り、ラグナードは火を噴くパイロープ山を振り仰いで、

「助けてくれて、ありがと……ほんとにありがとね……」

「俺のほうこそ、礼を言う」

震えながらしがみついている彼女の背を、優しくなでた。

「力を貸してくれたこと、感謝する」


圧倒的な力を持つドラゴンの前に引っ張り出されて、

マグマにあわや焼かれそうになって、

キリはどれほど怖かっただろう。


そんな恐ろしい思いをしながらも、彼女はラグナードに力を貸してくれ、彼の国を救ってくれた。


「こんな怪物退治に巻き込んだのは俺だ。
絶対に見捨てたりしない。お前の命を守るのは当たり前だ」


胸に感謝の思いが広がり、

彼は泣き続ける少女をそっと抱きしめる。


この子を死なせなくてよかったと、心の底からそう思った。


「怖い目に遭わせてすまない……もう、大丈夫だ」


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