キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
突然、
背後で轟音が響いた。
ラグナードは弾かれたように振り返る。
巨大なものが降ってきたような音だった。
いやな予感そのままに──
小山のようなそれは、そこにいた。
戦慄する。
全身焼けただれ、
地に這いつくばって、
それでも、こちらを見据える真っ白なドラゴン──。
火口に落とされてなお生き続ける強靱な生物は、怒りと憎しみの燃える青い目にラグナードとキリを映していた。
「くそ──」
ラグナードは思わずうめいた。
あれで、生きのびることができるのか、と彼は奥歯をかみしめる。
キリが魔力を限界まで使い果たし、
マグマに沈めて全身を焼いても、
しとめることができなかった。
策は失敗した──。
絶望的な現実にがく然とする。
「そんな……」
キリも目が覚めて、ラグナードの腕の中で震える声を出した。
「立てるか、キリ」
こくりとうなずいた少女をそっと大地におろして、ラグナードは再び剣を構えた。
ふらふらのキリがよろめいて、彼の背中にもたれかかった。
「キリ!?」
「だいじょうぶ……」
肩ごしにふり返ったラグナードに、とても大丈夫そうには見えない様子でキリは力なくほほえんだ。
「少し眠ったから、魔法も使えるよ……まだ、わたし役に立てるよ……」
キリはけなげにそう言った。
ラグナードは、もういい、あとは俺がなんとかすると言ってやりたかったが──とてもそんな無責任な発言をすることはできなかった。
人工魔法核も使いきりキリもこんな状態では、もはや飛行騎杖での戦いも無理だ。
やはりどうあっても人間では勝てない相手だったのだろうかと、ラグナードは思う。
もっとも、
ドラゴンのほうも、火口のマグマの中から飛び出してくるのに力を使い果たした様子で、破れた両翼はだらりと力をなくして垂れ下がり、今ひとたび空に舞い上がる力は残されていないようだ。
じっと、ドラゴンは二人を睥睨(へいげい)して鎮座していたが、やがて口を開いてうなるようにリンガー・レクスの言葉を吐き出した。
『その魔法に宿るおぞましき紋章と気配──』
と、キリを瞳に映してドラゴンは言った。
『霧の五大公が一人を召還して契約したか、魔女よ』
その言葉には、表情のわからない竜の口から発せられていてもはっきりそうとわかる、恐れとおののきとがにじんでいた。