キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
太古に霧の魔物を率いて大地の神々と争い、かつて完全なリングの形をしていたと言われるこの世界を、今ある五つの大陸に切りわけたと伝えられている霧の魔物たちの王の名前がロキだ。
「たぶんそのロキを、かな」
キリが口を開いて首肯した。
ラグナードはあんぐりと口を開けた。
霧の魔物と呼ばれる、霧の中にひそむ「なにか」が確かに存在することはよく知られているし、ラグナードも一昨日に現物を見たばかりだが──そういうものたちを率いる王がいるとか、大陸を切りわけた魔王などというものが本当に実在しているとは考えたこともなかった。
たった今までラグナードは、そんなものは五つある大陸の成り立ちを説明するために考え出された、書物の中だけの架空の怪物だと信じていた。
「五つの大陸を切りわけたって話は、本当なのか知らないけど」
とキリ。
「…………」
キリを凝視して絶句するラグナードの横で、ドラゴンが低くうなった。
『その若さでその魔法の腕前、確かに、かの悪魔との契約でならば得られような』
固まっているラグナードを見上げて、キリは困ったように「ええと、ええと……」と言葉を探して、
かわいらしいしぐさでこっくりと首をかしげた。
「わたし、言ってなかったっけ?」
「初耳だ!」
とぼけた顔に向かって、ラグナードは思いきりツッコミを入れた。
「そんな……オマエ……」
彼は言葉を継げずにしばしパクパクと口を動かした。
「魔王と契約なんて……おとぎ話や三文芝居で退治される、悪い魔法使いか魔女みたいなマネを、本当に……?」
「ひどぉい! おとぎ話とは違うもん」
ぷうっとほっぺたをふくらませて、キリは心外そうに文句を言った。
「わたし、悪者じゃないもん。べつになんにも悪いことなんかしてないよ」
魔王と契約を結ぶのは悪いことではないのか!? と声を上げそうになりながら、いやいやしかし、とラグナードは目の前の愛らしい少女を見つめて考える。
おとぎ話やお芝居の悪い魔法使いならば、困っている王子に命がけで力を貸してくれたりはしないだろう。
キリは、少し変わった女の子ではあるが、悪い子ではない。
これまで一緒にいて、ラグナードはそう感じていた。
『何も知らぬようだな、小僧』
そんなラグナードを見下ろして、ドラゴンが言った。
「たぶんそのロキを、かな」
キリが口を開いて首肯した。
ラグナードはあんぐりと口を開けた。
霧の魔物と呼ばれる、霧の中にひそむ「なにか」が確かに存在することはよく知られているし、ラグナードも一昨日に現物を見たばかりだが──そういうものたちを率いる王がいるとか、大陸を切りわけた魔王などというものが本当に実在しているとは考えたこともなかった。
たった今までラグナードは、そんなものは五つある大陸の成り立ちを説明するために考え出された、書物の中だけの架空の怪物だと信じていた。
「五つの大陸を切りわけたって話は、本当なのか知らないけど」
とキリ。
「…………」
キリを凝視して絶句するラグナードの横で、ドラゴンが低くうなった。
『その若さでその魔法の腕前、確かに、かの悪魔との契約でならば得られような』
固まっているラグナードを見上げて、キリは困ったように「ええと、ええと……」と言葉を探して、
かわいらしいしぐさでこっくりと首をかしげた。
「わたし、言ってなかったっけ?」
「初耳だ!」
とぼけた顔に向かって、ラグナードは思いきりツッコミを入れた。
「そんな……オマエ……」
彼は言葉を継げずにしばしパクパクと口を動かした。
「魔王と契約なんて……おとぎ話や三文芝居で退治される、悪い魔法使いか魔女みたいなマネを、本当に……?」
「ひどぉい! おとぎ話とは違うもん」
ぷうっとほっぺたをふくらませて、キリは心外そうに文句を言った。
「わたし、悪者じゃないもん。べつになんにも悪いことなんかしてないよ」
魔王と契約を結ぶのは悪いことではないのか!? と声を上げそうになりながら、いやいやしかし、とラグナードは目の前の愛らしい少女を見つめて考える。
おとぎ話やお芝居の悪い魔法使いならば、困っている王子に命がけで力を貸してくれたりはしないだろう。
キリは、少し変わった女の子ではあるが、悪い子ではない。
これまで一緒にいて、ラグナードはそう感じていた。
『何も知らぬようだな、小僧』
そんなラグナードを見下ろして、ドラゴンが言った。