キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
『魔法とは、時をかけて齢を重ねながら、自らの力で磨いてゆくもの。

だが短い時間しか生きられぬ地上の人は、短い生にふさわしい魔法では満足できず、いつの時代も分不相応な力を求めてきた。

昔から地上の魔法使いの中にはその小娘のように、全知なるエコルパールの悪魔たちの手を借り、人の限界を超えた膨大な魔法の知識と術とを契約によって得た者どもがいる。
その結果──』


軽蔑しきった調子でドラゴンは語った。


『己に御しきれぬ力を得た魔法使いたちはことごとくその力を暴走させ、破滅してきたのだ。

そして、霧の魔法とは──』


ドラゴンは恐ろしい声を出した。


『ただでさえニーベルングに住む者が使ってはならぬ絶対の禁忌!

禁断の魔法だ!

なぜならば──』


ドラゴンは凍てついた天空を仰ぎ、白い雪に覆われた世界を見回した。


『それは、この世界を霧に戻す力だからだ』

と、天空の魔法使いは告げた。


『たった一人の魔法使いが、ただひとたび霧の魔法を暴走させれば、誰にも止めるすべはなく、世界はすべて霧に戻り──消えて無くなる』



とんでもない話だった。

これまでキリが家事をこなすかのようにひょいひょいと使っていた消滅の魔法が、そんなものだったとは──ラグナードは思いもしなかった。


『それを、悪魔との契約によって己の扱える限界を超えて使おうとは……』


なんという魔女か! と、ドラゴンは吐き捨てた。


「やっぱりおとぎ話とおんなじじゃないか! 悪い魔女じゃないか!」

思わずラグナードはキリに向かって叫んだ。

「うふふ。暴走させたりしないから、だいじょうぶ、だいじょうぶ」

ぱたぱたと手を振って、キリはかわいらしい声でふくみ笑いをしながら軽い口調で言った。


まったく悪びれたところもなく、重大なことだととらえてもいないその態度に、ラグナードは頭痛がした。

どうやらとんでもない魔法使いを連れてきてしまったらしいと、彼は今さらのように悟った。


『ようやく合点がいった』

竜はキリをにらみ据えた。

『霧の魔法相手ならば、あの日、空で我が不覚をとったも当然のこと』


「あの日……? 空で……?」

きょとん、とするキリに、


『貴様だな、小娘!』

と、ドラゴンは牙を見せてほえた。



『貴様が我が誇りを傷つけし張本人!』



ビリビリと空気がふるえた。


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