キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
ブリザードのような怒りを真っ直ぐたたきつけられて、キリは身がすくんだ。


ラグナードが、怒り狂うドラゴンとキリとを見比べる。


キリは首を横に振った。

『なに……言ってるのか……わかんない』


かろうじてキリがリンガー・レクスでそう返すと、ドラゴンは激怒した様子で声を張り上げた。


『とぼけるか!
一年前のあの日、この上空を飛んでいた我を突然襲い、大地にたたきつけた魔法』


屈辱にうちふるえる咆吼が、キリとラグナードの鼓膜につきささる。



『それこそ、たった今、貴様が我を火口にたたき落とした距離消滅の霧の魔法であろう!』



ドラゴンは断定的な口調でそう決めつけた。


驚いて、キリは必死に首を振る。

彼女にはまったく身に覚えのないことだった。


『知らない……一年前なんて……わたし、ゴンドワナにいたよ……』

泣きそうになりながら口にした否定の言葉には、

『黙れ! 地の人の分際で、汚れた禁断の魔法を使い天の人たる我を地に落とした罪、許さぬ! 八つ裂きにして食い殺してくれる!』

血の凍るような宣言が返ってきた。


それからドラゴンは、氷の輝きの双眸をキリからラグナードへと移した。

『この国からは去ってやろう』

と、ドラゴンは打って変わったおだやかな声音で、ラグナードにとっては願ってもないことを口にした。

『この地にかけた氷の魔法も解こう。これでおまえの国は救われる』

『本当か……?』

勝ち目のない戦いから急に解放され、ラグナードは一気に肩の力が抜けるのを感じて剣のかまえをといた。

『約束しよう』

と、ドラゴンはうなずいた。


『かわりに、その魔女をこちらへ引き渡せ、小僧』


びくっと、キリの体がふるえる。

キリは、竜の方を向いていてよく見えないラグナードの顔を見上げた。


『それで貴様は見逃してやる。この国からも去ろう』


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