キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)







レーヴァンテインの炎が、ひときわ大きく燃え上がった。








『誓えるか! 二度と罪なきこの国の民に危害を加えぬと』


剣を振りかぶったまま、ラグナードは問いかけた。





『誓うなら──貴様を天から落とした者は俺が必ず見つけ出す』


血を吐くような思いで、彼は目の前の憎い化け物にどなった。


『その者は俺にとっても、この国に仇なした許しがたき敵だ! もくろみを暴き出して公にしたら、後はお前が誇りを取りもどすために八つ裂きにして食い殺そうとかまわない』





『──誓おう』

と、ドラゴンが言った。


『我に罪人を裁き、誇りを取りもどす機会を与えるというのならば──』





ラグナードは唇をかみしめた。

食いこんだ歯が肉をかみ破って血がにじんだ。



『キリに感謝しろ……』



しばしの後、

彼はそう言って、剣を引いた。


レーヴァンテインの炎が小さくなり、刃渡りのサイズにもどった。


固唾をのんで見守っていたキリがほっと息をついて、ほほえんだ。







「じゃあ、傷を消すね。
うーん……この剣で斬った傷、普通に消えるかなー」

キリがこわごわドラゴンに手をのばす。

もはや逆らう力もないのか、キリの手が首に触れてもドラゴンは微動だにせずにおとなしく横たわっていた。


鋼の武器をもはじき返す白い羽毛は、
驚くほど柔らかく
布団のようにふかふかだった。


「キリ、お前、魔法を使って大丈夫なのか?」

ラグナードは心配になって訊いた。

「さっきちょっと眠ったおかげで、あと一回、この傷を消すくらいなら魔法使っても平気ー」

「あんな少しの眠りで回復するのか……」

ラグナードは安堵して、

キリの魔法で見る間に消えてゆくドラゴンの傷をながめた。


流れ出た血液までもが、時間を巻きもどすようにしてドラゴンの体内へと吸収されてゆく。


世界を霧に戻して消してしまう霧の魔法というものは、こういうケガも治してしまえるらしい。

ラグナードは不思議な光景に感嘆の思いを抱きながら、キリが傷を「消す」と言ったことを思い起こしてなるほどと思う。

結果としては癒す行為でも、
行うのはやはり消滅であって、宮廷医師が行うように回復させるということとは根本的に異なる魔法ということのようだ。


ふと、

目の前の光景から、ラグナードはあることに気づく。


魔法使いを魔法によって滅ぼすには、その魔法使いよりも大きな魔力を有していることが必要だという話だが、

救うには、その必要はないということだ。


その事実は、何か重要なことを示している気がした。


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