キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
「普通に消せた。良かったあ」

キリがかわいい声で言って、竜から手を離した。

「なんだかやばそうな傷だったけど、ただの裂傷とやけどと同じだったのかな。
それとも『霧の魔法だから消せた』のかな……?」

キリは眠たそうにあくびをしながらそうつぶやいて、


回復したドラゴンが翼を広げて体を起こし、ラグナードとキリを空色の目で睥睨した。


ラグナードは緊張して剣をかまえた。

ふらふらしているキリの腕をつかんで、急いで引き寄せる。


不意に、頭上から舞い降りてきた暖気を感じて、ラグナードは周囲を見やった。

相変わらず道や民家は凍りついた状態で冷気が漂っていたが、これまで見えない壁にさえぎられていたかのごとく地上には届かなかった初夏の太陽の温もりが、辺りを満たしていた。


『ガルナティスの王子ラグナード・フォティア・アントラクス、そしてロキの契約者キリよ』


深々と、ドラゴンが頭を垂れて大地にあごをつけた。


『我は金の星グニタヘイズのファフナーが眷属、戦士ジークフリート』


二人に向かって平伏したまま、ドラゴンはリンガー・レクスで静かに自らの名を明かした。


『天の一族は、命を救い、今一度失った誇りを取り戻す機会を賜った恩に報いる。
悲願の成就まで汝らを主とし忠誠をもって仕えよう』


「え?」

「は?」


キリとラグナードは、ぽかんとした。


「こいつ、何のマネだ?」

ラグナードはキリと顔を見合わせた。

「えーと、天の人は誇り高くて義理堅いって聞いたことがあるから……」

と、キリが言った。

「まさか──」

ラグナードは、跪伏の礼さながらにこうべを垂れている巨躯を仰視した。


「ドラゴンを従えた──ということなのか、これは?」

「かみ砕いて言えば、そういうことじゃないかな」


二人は無言で、
しばらくぼう然と白いドラゴンを仰ぎ見て、


キリは首が痛くなって視線を下げた。

「己にかしずく相手を見上げねばならんとは……不快だ」

ラグナードがボソッとつぶやいた。
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