キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
そのとたん、

驚くべき変化が、目の前の生き物に起きた。


小山のごとくそびえ立っていた白い体は、
周囲の家々の大きさに、
牛ほどの大きさにと、
みるみるうちに丈が縮み──


やがて、
一瞬前まで竜がいた場所には、一人の人間がひざまずいていた。


「人の姿になれるのか!?」

ラグナードは今や見下ろす形になった天空の魔法使いを穴があくほどながめた。

「だから天の『人』だって言ったじゃん」

と、キリ。

「そういう意味だったのか──?」

ラグナードはびっくり仰天した。

「地上の人間は、天空船によって内部上空を航行する方法を編み出したが──我ら天に住む魔法使いは、大昔、真空の環境に耐え得る形に体そのものを変化させるすべを見いだして、生活の場を霧の脅威がない安全な空へと完全に移したのだ」

人の声で貴族語をつむいでそう言い、ひざを折っていた天空の魔法使いは立ち上がった。

「つまり、ドラゴンというのは──もともと人間の姿をしていたということか」

ラグナードにとっては、初めて知る内容だった。

ドラゴンが大昔は人間だったなど──こんな話は、世の中のほとんどの人間が彼と同様に知らないだろう。

「もっとも、我は生まれて今日までこんなか弱き二本足の姿などになったことはなかったが──」

若々しい声でそう言って、居心地悪そうに自らの体を見下ろす人間の姿を、ラグナードとキリはしげしげと観察した。

「じゃ、そのせいだ」とキリが言った。

「なにがだ?」

天の人が首をかしげた。

「人間としていろいろと間違ってる……!」

キリが言って、ラグナードもうなずいた。

「間違っている……?」

問い返す天の人に向かって、二人は「とりあえず」と言って同時に口を開いた。


「なんで素っ裸なんだ!?」

「ちゃんとした人間の姿になってないよ!」


天の人が不思議そうに目をまたたいた。


ラグナードとキリは互いの口から飛び出した異なる指摘に、ん? と眉を寄せた。


「人間の姿には、ちゃんとなっていると思うが……」

「裸なのは当たり前だよ。もともとドラゴンは服なんて着てないんだから」


二人は顔を見合わせてから、目の前に立っている人間に視線を戻す。


雪のように白い肌をさらして、一糸まとわぬ寒そうな姿で二人の前に立っているのは、

冷たい青い瞳と、羽毛と同じ白銀の髪とをした人間だった。


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