キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
「たしかにこいつから奪還はしたが、まだ問題は解決していないだろう」
「だめだめ。契約は契約だもん」
キリは口をとがらせた。
ジークフリートは、赤いリンガー・レクスの内容に目を走らせて、
「キリが去るならば、我はラグナードと行動を共にさせてもらう。
我に誇りを取り戻す機会を与えると約束したのはラグナードなのだからな」
そう言ってから、「この契約書を見る限り、キリは契約分の働きをしたということになる」と彼女に賛同した。
「だよね、だよねっ」
「褒美とやらを素直に渡したほうが身のためだぞ。ずいぶんとうかつに、こんな魔女の契約書にサインをしたものだ」
ジークフリートはそんな意味深長な言い方をして、ラグナードは少し不安になりながらどういう意味だと問いただした。
「呪いというものは、もしも何らかの方法で解かれた場合、かけた魔法使い本人にはね返ってくるリスクをともなうが──このような契約書にある契約を破った場合、魔法使いはリスクなしで血の署名を通じて相手に呪いをかけることができる」
天の魔法使いはそんな説明をした。
初めて会った晩にキリが口にしたセリフは、ただの脅しではなかったのだ。
「そうか。それならば仕方がないな」
ラグナードは不気味なほどあっさりと引き下がった。
「では、王宮に帰るぞ。杖のことを国王陛下に伝えよう」
じっとキリを見つめて、何か考えている様子でラグナードはそう言った。
キリは首をかしげたが、すぐに「ありがとう」と笑顔になって喜んだ。
「ところでこの剣、どうしたらいいんだ?」
と言って、ラグナードはいまだに炎が巻きついたままの王家の聖剣に視線を落とした。
「これでは鞘に納めることもできないぞ」
「うーん、意志の力に反応する炎なわけだから……」
キリはちょっと考えた。
「消えるように念じればいいんじゃないのかな」
言われたとおり、ラグナードは剣の周りの火が消えるように心の中で念じてみた。
たちまちに、刀身はオレンジの輝きを失い、深紅の炎がかき消える。
「我が体を切り裂いたその剣──」
鞘にレーヴァンテインを納めるラグナードを、ジークフリートは凝視した。
「まことに人が鍛えたものか?」
「そのはずだが……」
ラグナードは、聖剣の由来を思いうかべる。
「一千年前の独立聖戦で使われたものだと聞いている。
ガルナティスの初代国王フェンリスヴォルフ一世の持ち物だったと」
ひょっとすると──と、ラグナードは思う。
炎を象った王家の紋章は、この剣がもとになっているのではあるまいか。
「だめだめ。契約は契約だもん」
キリは口をとがらせた。
ジークフリートは、赤いリンガー・レクスの内容に目を走らせて、
「キリが去るならば、我はラグナードと行動を共にさせてもらう。
我に誇りを取り戻す機会を与えると約束したのはラグナードなのだからな」
そう言ってから、「この契約書を見る限り、キリは契約分の働きをしたということになる」と彼女に賛同した。
「だよね、だよねっ」
「褒美とやらを素直に渡したほうが身のためだぞ。ずいぶんとうかつに、こんな魔女の契約書にサインをしたものだ」
ジークフリートはそんな意味深長な言い方をして、ラグナードは少し不安になりながらどういう意味だと問いただした。
「呪いというものは、もしも何らかの方法で解かれた場合、かけた魔法使い本人にはね返ってくるリスクをともなうが──このような契約書にある契約を破った場合、魔法使いはリスクなしで血の署名を通じて相手に呪いをかけることができる」
天の魔法使いはそんな説明をした。
初めて会った晩にキリが口にしたセリフは、ただの脅しではなかったのだ。
「そうか。それならば仕方がないな」
ラグナードは不気味なほどあっさりと引き下がった。
「では、王宮に帰るぞ。杖のことを国王陛下に伝えよう」
じっとキリを見つめて、何か考えている様子でラグナードはそう言った。
キリは首をかしげたが、すぐに「ありがとう」と笑顔になって喜んだ。
「ところでこの剣、どうしたらいいんだ?」
と言って、ラグナードはいまだに炎が巻きついたままの王家の聖剣に視線を落とした。
「これでは鞘に納めることもできないぞ」
「うーん、意志の力に反応する炎なわけだから……」
キリはちょっと考えた。
「消えるように念じればいいんじゃないのかな」
言われたとおり、ラグナードは剣の周りの火が消えるように心の中で念じてみた。
たちまちに、刀身はオレンジの輝きを失い、深紅の炎がかき消える。
「我が体を切り裂いたその剣──」
鞘にレーヴァンテインを納めるラグナードを、ジークフリートは凝視した。
「まことに人が鍛えたものか?」
「そのはずだが……」
ラグナードは、聖剣の由来を思いうかべる。
「一千年前の独立聖戦で使われたものだと聞いている。
ガルナティスの初代国王フェンリスヴォルフ一世の持ち物だったと」
ひょっとすると──と、ラグナードは思う。
炎を象った王家の紋章は、この剣がもとになっているのではあるまいか。